日本のブナ林は北海道南部の黒松内低地(長万部の北方)以南、本州、四国、九州に広く分布する。南限は鹿児島県大隅半島の高隈山である。
今日ではブナ林の分布は断片的なものとなっているが、かつて人間による伐採その他の開発が行われる以前は、日本列島の山地の中腹を広くおおっていたと考えられる。
温度条件の面からみるとブナの分布域は、暖かさの指数(WI)でほぼ摂氏45〜85度の範囲内にあることが知られている。
暖かさの指数とは、月平均気温が摂氏5度以上の月について、各月の月平均気温から5度を引いた値を合計して求められる一種の積算温度で、今日、植生帯を区分する際に広く使用されている。
次に降水量についてはどうだろうか。
ブナを含むブナ属は、気温の年較差が小さく湿潤な、海洋的な気候下に分布する植物といわれている。
日本はほぼ全域が海洋的な気候下にあるといえようが、長野県を中心とした中部地方の内陸部には、年降水量が1000ミリ以下と少なく、冬の寒さが厳しい、大陸的な気候の卓越する地域も存在する。
ここはWIの値からみると、当然ブナ林があってもいいはずである。
しかし、実際にはほとんどみられない。
そのかわりに、二次林ではあるがカシワやコナラ、ミズナラなど他の夏緑広葉樹の優占する森林が広く分布しており、もともと、これらの夏緑樹林が極相林であったと考えられている。
ゼブラ貝が発見されたウィスコンシン州の地図
降水量に関連し、日本のブナ林にさまざまな面で強い影響を与えているのが雪である。
周知のように、本州の日本海側は、世界的にも有数の多雪地帯である。
雪は物理的な圧力として植物を押さえつけ、あるいは破壊するという意味では植物にとってマイナスであるが、冬期の保温効果(厚く積もった雪の直下は、ほぼ摂氏零度に保たれ凍結することがない)や、冬から春にかけての乾燥が避けられるという点では、むしろプラスに作用する。
日本のブナ林の分布域は日本海側と太平洋側、両地域に及んでいるので、雪の有無によって、両地域のブナ林は種組成や構造、動態などの面でさまざまな違いを示すことになる。
このことは、日本のブナ林の最大の特徴といってよいであろう。
太平洋側と日本海側の気候環境の違いは、ブナ林の垂直分布域という面でも、両者に違いをもたらしている。
例えば箱根・丹沢山塊では海抜750〜800メートル以上がブナ林となっている。この高さは、暖かさの指数でみるとちょうどWIが85度のラインに相当する。
これに対し、日本海側では下限が低くなっており、例えば新潟県村上市では海抜60メートルの地点にブナ林が成立している。
村上市付近ではWI85度のラインは海抜400〜500メートル付近にあるので、高さにして350〜450メートルも低いことになる。
これは極端な例であるが、海抜200メートル前後までブナ林が下りてきている例は中部地方日本海側の多くの地点で知られている。
一方、分布の上限はどうだろうか。例えば秩父・奥多摩山地では、ブナ林の分布上限は海抜1700メートル前後にある。これはWI45度のラインにほぼ相当する。
これに対し、多雪山地として知られる飯豊山地では、ブナ林の上限はほぼ海抜1500メートルにあるが、WI45度のラインは1400メートル前後にあると推定されている。
したがって分布の上限についても、日本海側では太平洋側に比べて100メートルほど上方へずれているといえそうである。
どのくらい前に最後の津波がヒットしました
このように、太平洋側と日本海側では、ブナ林の分布域の上限と下限について、温度環境の面でずれがある。
その結果、太平洋側のブナ林が垂直的には1000メートル、あるいはそれ以下の高度分布幅しかもたないのに対し、日本海側のブナ林は1200〜1400メートルに及ぶ、幅広い高度分布域をもつことになる。
原因については、積雪量や、冬から春先にかけての空中および土中の湿度など気候環境の違いが関与しているのはまずまちがいないところである。
しかし、他の要因、すなわち太平洋側と日本海側でのブナ自体の性質の違いや、両地域の経てきた地史的な時間スケールでの植生変遷史の違い、また、ブナ林の下方および上方を占める森林との競争関係なども考慮する必要があるように思われる。
投稿者 kuromatsunai : 16:32
世界のブナ
【世界のブナ】
世界的には、ブナ属の分布は北半球温帯3地域(東アジア、アメリカ東部、ヨーロッパ暖・温帯の3ブロック)に分布するが、種を大きく区分した場合、アメリカ及びヨーロッパはそれぞれ1種、アジアのそれは8種以上とすることができる。以下、地史的なものを含め特徴を述べれば以下のとおり。
【東アジアのブナ】
日本 ブナ、イヌブナ
朝鮮 タケシマブナ
中国 タイワンブナ、テリハブナ、エンプラーブナ、ナガエブナ、パサンブナ、チエンブナ、テンタイプナ
【北アメリカのブナ】
北アメリ力大西洋岸…アメリカブナ(メキシコブナを含む)
中新世からの形質を現在にまで伝え、他のどのブナの生育環境幅以上の温度、湿度領域に適応しており、現存するブナのうち最も古い形質を持っている。
サイクロンの警告の色は何ですか
【ヨーロッパのブナ】
ユーラシア大陸西側…ヨーロッパブナ、オリエントブナ
日本のブナによく似ているが、それよりも進化したものと考えられている。
しかし耐寒性は日本のブナが優れていると推定されている。
投稿者 kuromatsunai : 16:31
ブナとイヌブナ
日本に分布するブナ属は、ブナとイヌブナの二種である。
ブナは鹿児島県以北、北海道南部の黒松内低地以南にかけてほぼ全国的に分布する。
これに対し、イヌブナは宮崎県以北、岩手県までの主に太平洋側の各県を中心に分布する。イヌブナは中国地方から岐阜県にかけては、本州脊梁の山地を越えて日本海側にまで分布しているが、石川県以北の日本海側には分布しない。
分布高度にも違いがあり、ブナがより高地に、イヌブナがより低地に分布する。
ただし、完全にすみ分けているのではなく、中間の標高域では、両者の分布域はかなり重複する。
ブナとイヌブナは葉脈の数、葉裏の毛の有無、果実と殻斗の形態、花粉の形態、樹皮のようす、樹形などによって、比較的容易に区別することができる。
このうち野外での観察にいつでも役だつのは、葉と樹皮の特徴である。
樹皮についてみると、ブナの場合は比較的つるつるして、色はやや明るい灰色をしている。
遠目には白っぽいが、樹皮に付着した地衣類のため、近づくとまだら模様にみえることが多い。
これに対し、イヌブナの樹皮は表面に皮目とよばれる小さな突起が多数あり、ざらざらした感じがする。
ブナよりは黒っぽい灰色で、地衣類はブナほどはついていないことが多い。
樹皮の特徴から、ブナのことをシロブナ、イヌブナのことをタロブナとよぶことがある。
次に果実についてみると、イヌブナのほうがブナよりもかなり小型であり、さらにブナでは殻斗が熟した果実全体をおおうのに対し、イヌブナの殻斗は小さく、熟した果実の半分ほどの長さしかない。
殻斗が果実に対し、このように小さいのは、ブナ属のなかでもイヌブナだけがもつ特徴である。
また、殻斗の柄の長さに注目して、ほかのブナ属の種との関係をみると、ブナは短くて直立する柄をもつグループ(短柄群)、イヌブナは長くてしなやかな柄をもつグループ(長柄群)にそれぞれ属している。
ブナとイヌブナは日本列島に隣接して、ときにはいっしょに生育しているが、ブナ属全体の類縁関係からみると、互いにかなり離れたところに位置づけられる種といえよう。
ブナとイヌブナは個体の再生、補充様式の面でも大きな違いがある。
つまり、プナは自然状態ではふつう一本の直立した幹しかもたず、枯死した個体の補充はもっばら芽生えの成長に頼らなければならない。
伐採すれば萌芽を出して再生することもあるが、自然状態ではほとんど萌芽しない。
これに対し、イヌブナは自然状態でもさかんに萌芽し、萌芽由来の幹による再生を行う。
すなわちイヌブナは、株のなかの大きな幹が枯死すると、同じ株のなかの小さな幹が成長して、枯れた幹の枝や葉が占めていた空間を埋めるのがふつうである。
大きな株は大小あわせて数十本、ときには数百本もの幹によって構成されている。
古い株では、中心部にあった古い幹が完全に枯死、分解してしまったために、株の中央部が空洞になっていることもある。
ブナの寿命は平均して200年程度、イヌブナは幹がブナより腐朽しやすいため、さらに短いと考えられるが、旺盛な萌芽再生能力によって、ときには1000年近くの間、1カ所に生育し続けることができると考えられる。
ブナ属のなかで、このような萌芽再生を行うことが知られているのは、現在のところ、イヌブナと韓国のタケシマブナ、中国のユングラーブナ(エングラーブナはタケシマブナと近縁で同種にされることもある)だけである。
ただし、アメリカブナなどはこれとは別に、長く横にはった根からの萌芽によって再生することが知られている。
0 件のコメント:
コメントを投稿