2012年4月16日月曜日

「自然の庭」を探す旅での出会い、不思議な体験とは?~「ネイチャー・センス展」を二度楽しむ、篠田太郎×片岡真実トーク(2): 森美術館公式ブログ


造園を学んだ篠田太郎さんによる独自の「庭」や「自然」の考え方には、チーフ・キュレーター片岡真実も大いに刺激を受けたといいます。MAMCメンバーズ・ギャザリングでの篠田太郎×片岡真実トーク、第2章では、海外で体験した不思議なエピソードを交えて、篠田さんの「庭をめぐる旅の話」をご紹介します。(文・児島やよい)

韓国とアメリカで自然の庭を探して—スピリチュアルな体験も

片岡:私が東京オペラシティアートギャラリーでキュレーターをしていた時に企画した「アンダー・コンストラクション:アジア美術の新世代」展(2002年)で、篠田さんに《ガーデニング》という作品を出展していただきました。その前に、韓国に行って、韓国の気功師に話を聞いて、自然の空間の中にアートと庭があるという作品をつくったんですよね。


周期的またはヘリカル研究は何ですか?

篠田:それは予算もない中で悩んだ挙げ句でもあったんですけど(笑)。庭とは何か、ということを考えていた。庭は自然の模倣だという考え方がありますが、なぜ人間はそういうことをするんだろうかと考えた時に、もともと人間よりネイチャーのほうがすぐれているとすれば、ネイチャー自身が造った庭が存在していて、人間はそれを発見するだけでいいんじゃないかと思ったんですね。ぼくはその場に行って、庭を眺める縁側だけつくればいい、と。でもどこに行っていいかわからないので、地図を持ってソウルの占い師のところにいったんです。(会場笑い)
彼に「ぼくは庭を探していて、こういうものが見たい、ここに縁側を作りたい」と告げると「うーん、わかった」と言って、2カ所、教えてくれました。ひとつは韓国中で最も気が集中している山で、ここからソウル市内に全部気が流れている、だからここに行けばあとは君のネイチャーセンスで、望み通りの庭を発見できるだろうと。GPSも持ってフル装備で行って、測量しました(笑)。彼は韓国古武術の先生でもあるんですけど、もう1カ所、ソウルに素晴らしい場所があると教えてくれたのが、「それは我が道場である」と。それで仕方なしに彼の道場を測量して(笑)彼の道場に合う縁側と、山に合う縁側を2つ設計して帰ってきました。実際にその縁側を作る予算はそのときなかったんです。

片岡:その庭の模型と、ソウルでのドキュメンタリービデオを、オペラシティでは展示していただきました。そのあと2005年に、ロサンジェルスのREDCATで「縁側プロジェクト」を行っていますね。

篠田:このときは縁側型トレーラーを作り、ネイティブアメリカンの人と一緒に1週間くらい旅をしました。


縁側サイト・プロジェクト(ESP)-東への旅
2004
Photo:Marty Aranaydo and Shinoda Taro


他のシステムに関連するnaturla災害は何か

片岡:この写真がほんとうに美しい。今回の滝の作品《忘却の模型》には、日本の風景というよりはこういうワイルドな野生の空間があるように思います。まるで人間の生を受け付けないような場所に行って自然から学んだという篠田さんの勇気に感心します。このプロジェクトは、庭として鑑賞する場所を見つけた時に、トレーラーから縁側を外してセッティングするという作品ですね。

篠田:そう、ぼくの理想は30フィートトレーラーなんですけど、つくってる途中でお前の国際免許は30フィートトレーラーを運転できないぞと言われて、10フィートになりました。そんなふうに、いつも法規的な問題にぶつかります。あとこのときは、ネイティブアメリカンにも深刻な問題があって、日本からぽっと行った人間がそういう問題にずかずかと踏み込んでいいのか、ということをキュレーターとずいぶん議論しました。でも僕は、そういう問題には関心がない。この土地といちばん古くから付き合いのある人間と一緒に旅をして庭を探したいんだ、とキュレーターを説得したんです。結果的には素晴らしい旅になりましたが、いつもそういった法規的な問題、社会的な問題というのはいろんな国でついて回ります。< /p>

片岡:篠田さんがネイティブアメリカンと旅をしたという話を聞いて、興味を持っていろいろ本を読んでみたんですけど、日本の宗教観が自然崇拝から始まったのと同じように、ネイティブアメリカンの人たちにとって、大地は神から与えられたものなんですよね。コヨーテも特別な存在とか。


バータックの定義は何ですか?

篠田:旅の途中、砂漠の真ん中で、マーティというネイティブアメリカンが、おもむろにコーンパイプでタバコをふかし始めたことがありました。このパイプはメディスンマンが僕たちの旅の為に調合してくれた特別なタバコなんだ、太郎も吸ってごらんと。吸ってみたらふつうのタバコとは全然違って、すごく気持ちがいい。変なものが入ってるわけじゃないですよ。そうしたらコヨーテがごく側まで近づいてきた。マーティが、ふだんコヨーテはこんなに人間に近づいてくることはないんだけど、古くからコヨーテはメッセージを運んでくると言い伝えられている。太郎は何かメッセージを受け取ったか、と。そのときはピンと来なかったんですけど、それから旅を続けていて、前後500マイルなんにもないというようなと� ��ろを走っていて、何にもないところなんだけどふっと気になって脇道にそれたんです。なんでそれたのかわからないんですけど、車を停めてちょっと外に出てみたら、コヨーテの赤ちゃんが死んでいた。誰かが遊び半分に撃ち殺したようでした。で、僕はさっきのコヨーテのメッセージは、この赤ちゃんの魂を慰めて欲しいということだったんじゃないかと思いあたって、そのことをマーティに話して、煙草の葉っぱをお供えして水をかけてお祈りを捧げて、簡単な儀式をしました。すると、それから先もしょっちゅうコヨーテに会うんですよ。分かれ道でコヨーテのいるほうに行くと素晴らしい景色に出会えたり。だからちょっとマジカルな旅でした。


片岡:マジカルというか、スピリチュアルな存在というのがネイティブアメリカンの中に未だに残っていて、メディスンマンというのも日本語でそれにあたる言葉がないらしいんですけど、聖職者というか、シャーマンみたいに神の声と人間をつなぐような存在ですよね。「ネイチャー・センス」という企画を考えていた時に、篠田さんからこの美しい旅の写真を見せていただいて、今のような話を聞きました。20世紀の近代化された私たちの生活。あるいはヨーロッパの啓蒙主義以降の知性や合理性でもって世の中を考えていく、理解していくというような考え方が優先されてきた時代において、取り残されたり忘れ去られたりしてきたもの、もしくは野蛮だからもっと近代化しなければならないというような動きの中で否� �されてきたものの中に、もしかしたらまだ大事なことが残っているのではないか。そういうものをもう一度拾い上げることによって、私たちの未来を考える時にも、何か方向性が見えてくるかなと思いはじめた時でした。だから、自然がそのまま宇宙観につながるという話も私なりにしっくりきたんですね。

篠田:でも、これは大自然の中に行きましたけど、こういうところに行こうと意図して行ったわけではないんです。この展覧会を企画したキュレーターと一緒に、ハリウッドサインの見えるところに行って下に縁側を出してお茶を飲みながら、素晴らしいねハリウッドサインは、と言い合ったりもした。僕の関心の中で縁側というのがひとつのメタファーとしてある。日本庭園、とりわけ禅宗の庭というのは、基本的にその中に足を踏み入れることを許さないわけですね。神の領域と人間界とのボーダーとして、縁側が存在するというとらえかたをしていたんです。それを持って歩くことによって、そこに座った瞬間に周りが360度アンタッチャブルな聖域と化す、というコンセプトでした。そこで、ハリウッドサインでも、た� ��えば東京だったら森ビルでも、そこが聖域となった時に、果たしてこういうものを我々はどういうふうにとらえたらいいんだろうかと再考することが目的でした。だから美しい景色を観に行こうとしたわけではないんです。



縁側サイト・プロジェクト(ESP)
2005
スチール、アルミニウム、ATVトレーラー、木、ペイント、蛍光灯、ビニール
サイズ可変
展示風景:「埋められた宝:篠田太郎」
REDCAT、ロサンゼルス、2005
Photo:Fredrik Nilsen

展覧会では、映像的なドキュメンテーションをいっさい展示しなかった。映像を見せたり写真を見せたりするのは、ぼくのオリジナルの体験とは程遠いものになる。それを、実体験に近いものと勘違いさせないようにしました。旅の途中でひとつの詩を作ったので、それを翻訳したテキストを、青く塗った壁にホリゾンタルにカッティングシートで貼って、後は何もない空間。入り口のところに旅日記があるんですけど、そこにちょっとした挿絵を描いたのが唯一のビジュアルドキュメンテーションでした。後は、何もない空間を、小説を読むようにイマジネーションの中で鑑賞者がぼくの体験を追体験してもらえればいいなと思ったんです。

≪次回 第3章 「ネイチャー」とは文字通り、あらゆるものだと思う に続く≫

【児島やよい プロフィール】
フリーランス・キュレーター、ライター。慶応義塾大学、明治学院大学非常勤講師。「草間彌生 クサマトリックス」展に企画協力。「ネオテニー・ジャパン—高橋コレクション」展(上野の森美術館他巡回)等のキュレーションを手がける。
 

<関連リンク>
・連載対談:「ネイチャー・センス展」を二度楽しむ、篠田太郎×片岡真実トーク
第1章 造園からアートへ。「ポータブルな庭をつくりたい」
第2章 「自然の庭」を探す旅での出会い、不思議な体験とは?
第3章 「ネイチャー」とは文字通り、あらゆるものだと思う

・「ネイチャー・センス展: 吉岡徳仁、篠田太郎、栗林 隆
日本の自然知覚力を考える3人のインスタレーション」
会期:2010年7月24日(土)~11月7日(日)

・森美術館メンバーシップ・プログラムMAMC
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